ディープインパクトが皐月賞・ダービーを快勝し、史上最強馬という評価が高まるなか、菊花賞を回避して凱旋門賞を目指すべきだという声が少なからずありました。
スターホースとして3冠馬という観衆から期待される「栄光」を達成するべく菊花賞に出走を決定し、凱旋門賞の挑戦は翌年に持ち越しとなりましたが、この決定はディープインパクトの栄光に微かな影を落としたとも言えます。
世界のスターホースが集う凱旋門賞
凱旋門賞は、毎年10月1日にフランスのロンシャン競馬場で開催される世界最高峰のG1レースです。
芝2400mで行われ、ディープインパクトが出走した2006年当時の1着賞金は1,142,800ユーロ(日本円で約1億7千万円)で、
この年のジャパンCの1着賞金が約2億5千万円ということを考えると、当時の凱旋門賞の賞金は比較的低い価格でした。
3歳牡馬の斤量が56kg、4歳以上の牡馬が59.5kgと3.5kg以上の差があるため、3歳牡馬が有利とされているところに、ディープインパクト3歳出走待望論が出た理由があります。
ディープインパクト出走時の様子
ディープインパクトはクラシックレース3冠を達成し、翌年2006年4歳で、天皇賞(春)に勝利し、5月7日に発表された芝・超長距離部門(2701m以上のレースが対象)で日本調教馬としては初めて世界ランク1位となりました。
その翌日に池江調教師より凱旋門賞出走の計画が発表されました。
この年の凱旋門賞のレースは、日本にもはや敵なしのディープインパクトの実力を世界に示す時が来たという期待が大きく、
NHKは局では初めて、フジテレビはシンボリルドルフ出走以来の地上波で放送し、最大瞬間視聴率は関西地区で28.5%になったといいます。
また、国内ではロンシャン競馬場の馬券は買えませんが、競馬場の入場数60,000人のうち、6,000人が日本人であったとも言われ、ディープインパクトが世界で戦う雄姿を一目見たいという人が多かったことが伺えます。
この日のディープインパクトは、スタートは出遅れることなく、スムーズに出ることができました。いつもの定位置の後方ではなく、中団で走ります。
直線で一時先頭に立つものの、いつもの躍動感あふれる走りは見られず、3歳のレイルリンク、6歳牝馬のプライドにゴール直前で差され、3着に終わりました。
敗因は?
その年に世界ランク1位になり、誰もが勝利を疑わなかった凱旋門賞でのディープインパクトの敗戦の原因としていくつか挙げられています。それらを見ていきましょう。
・力がいる馬場が苦手だった?
日本の競馬場は高速馬場に仕上げて能力がそのまま発揮できるように作られています。
それと比較してロンシャン競馬場はペレニアルライグラスという洋芝で細かい網の目が張り巡らされているような状態で、着地した蹄が沈み込み、蹄が地面から離れた時に絡みつくような感触となります。
こうした芝が一瞬のキレる脚よりも力を必要とする馬場にしています。
逆にジャパンCでは2005年のアルカセットの勝利以来外国馬が勝利していないのも、高速馬場に外国馬が対応できていないことを示しています。
ディープインパクトは万能でしたが、高速馬場でより能力を発揮していたので、力のいる馬場で重い斤量を背負い失速してしまった可能性はあります。
・風邪をひいていた?
凱旋門賞で3着に終わった直後の薬物検査で、ディープインパクトの体内から禁止薬物イプラトロピウムが検出され、失格となってしまいます。
ディープインパクトは9月初旬から咳き込むようになり、フランス人獣医師によりイプラトロピウムの吸入治療を行った時にディープインパクトが暴れたため、薬剤が飛散して干し草などに吸着し、それを食べてしまったと見られています。
薬物の摂取については故意でなかったとされましたが、ディープインパクトの偉大な功績に思わぬ傷をつけてしまう結果となってしまいました。しかし、それ以前にフランスでの調整において万全の体調ではなかったということが予測されます。
・位置取りが悪かった?
ディープインパクトは凱旋門賞でスタートがよかっただけに道中2-3番手から早めに抜け出して先頭に立っており、解説をしていた岡部元騎手が実況中に「まだ早い!」と思わず叫ぶ場面もありました。
この位置取りがディープインパクトの末脚を活かしきれなかったのではないかという見方もあります。鞍上の武騎手は「直線を向いてからハミをとらなかった」とコメントしています。
・ローテーションに問題があった?!
日本でも活躍していたオリビエ・ペリエ騎手は「日本のスターホースは凱旋門賞で勝利する能力はあるが、前哨戦を経験しないで勝利するのは難しい」とコメントしています。
ディープインパクトは宝塚記念から凱旋門賞に直行しており、現地の前哨戦のレースを経験していなかったために力を出し切れなかったという見方もあります。
・フランス厩舎の陰謀だった?!
凱旋門賞は欧州馬以外の優勝はありません。それだけに、ヨーロッパ以外の馬を勝たせてはいけないという雰囲気もあるようです。
この年の凱旋門賞もアンドレ・ファーブル厩舎の3頭が道中ディープインパクトを囲んでいたという見方もあります。事実、ディープインパクトは再三イン・アウトに位置取りを変えようとしています。
このように敗因が複数出てくるのも、ディープインパクトの強さが認識されてこそではないでしょうか。今後も日本馬の活躍を期待したいところです。
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