NHKマイルC、ダービーとクロフネやタニノギムレットが成し遂げることのできなかった偉業「変則2冠」を達成し、将来が期待されていたキングカメハメハ。
屈腱炎を発生し引退を余儀なくされましたが、距離が不安視されたNHKマイルCでの雄大でしなやかなキングカメハメハの走りは衝撃でした。
主戦の安藤克己騎手をして「誰が乗っても勝てる馬」と言わしめたキングカメハメハはどんな馬だったのでしょうか。
高くはなかった前評判
キングカメハメハのデビュー戦は京都競馬場。
道中は6番手で進み、直線ラスト100mで抜け出し差し切ったものの、1/2馬身差の接戦でした。
次走のエリカ賞も道中5番手につけ抜け出しして勝利したものの、グレートベースンに差し返される場面もありました。
続いて京成杯(G3)は3着に敗れますが、ここまではキングカメハメハが強い競馬をしているという印象がまるでありませんでした。
「並みの馬」から変則ローテーションで最強馬へ
そこからダービー馬へ育て上げたのが松田国英調教師です。
早い段階で皐月賞の回避を決断し、NHKマイルCからダービーへというローテーションを決めました。
このローテーションは同じ松田厩舎の先輩にあたるクロフネやタニノギムレットのかつてのローテーションでもありました。
クロフネとタニノギムレットは屈腱炎を発症して3歳で電撃引退を余儀なくされ、「NHKマイルCからダービーへの強行ローテーションが原因だ」という批判が多かったのも事実です。
しかし、松田調教師は「強い馬は直線の長い東京競馬場でこそ実力を発揮する」と繰り返し説明し、キングカメハメハについても「マツクニローテーション」を貫きました。
才能が開花したNHKマイルC
NHKマイルCは芝1600m。
これまで2000mのレースを中心に走ってきたこともあり、距離が合わないのではとささやかれていました。
しかし道中9番手で進み、直線であっという間に抜け出して2着のコスモサンビームに5馬身差をつけて圧勝。
1分32秒5のレースレコードでした。このレースにはのちにフェブラリーS(G1)を勝利したメイショウボーラー(3着)、ジャパンカップダート(G1)2着のシーキングザダイヤ(7着)もいました。
鞍上の安藤克己騎手自身もキングカメハメハは2000m以上の距離があっていると感じており、NHKマイルCでは勝たないまでも、そこそこの競馬ができればと考えていましたが、返し馬のやわらかい走りをみて勝利を確信したといいます。
逆にNHKマイルの勝ち方が素晴らしすぎてダービーの方が適性がないのではないかと不安がよぎったとインタビューでコメントしています。
超ハイペースの壮絶な戦いだった「死のダービー」
そして迎えたダービー。
マイネルマクロスが大逃げを打ったことで、前半1000mが57.6秒と超ハイペースの展開となります。
そして直線を迎えたところで余力のなくなったマイネルクロスに代わって先頭に立ったのは地方の星と呼ばれ皐月賞2着のコスモバルクでした。
そして、直線残り500mでキングカメハメハに後ろからきたハイアーゲームが並びかけた時、安藤騎手は早くもキングカメハメハを追い出しにかかります。
後日安藤騎手はインタビューで「早く出しすぎた。もうちょっと待ってもよかった」とコメントしていましたが、
ライバルと目されてきたハイアーゲームに置いて行かれてはいけないという騎手の判断だったのでしょう。
最後の100mでハーツクライが抜群の伸び脚を見せるも、キングカメハメハが1.1/2馬身で振り切りました。
結果2分23秒3のレースレコード。それを見て競馬場はさらに呻きにも近い歓声が広がりました。
コスモバルク(8着)の他にも、有馬記念(G1)・ドバイシーマC(G1)を制したハーツクライ(2着)、
天皇賞春(G1)を制したスズカマンボ(5着)、G1を5勝したダイワメジャー(6着)と実力のある馬が揃う、まさに黄金世代の激戦でした。
このレースの後に屈腱炎で引退したキングカメハメハを含め故障馬が続出したことから「死のレース」とも呼ばれました。
この年、3連単馬券が導入され、そして、変則2冠を達成したキングカメハメハがまた競馬に新たな面白さを与えてくれました。そしてこの馬の能力は産駒にも引き継がれていくのです。
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